さそり庵



ちをすう人とくろいシャチ

参考:FFXI公式ページ・練武祭(2007/4/27)



 ミゥ・アバッキォ(天晶XXX年~)ミスラ♀/黒髪/黒目
 報奨金:350000ギル/アトルガン黄金貨35枚
 黒鯱のミゥ。生来の黒髪はミスラ族にあっては稀少。
 若年ながら海賊船ヘヴンズ・オルカ号元船長で、主としてエラジア西海岸を数年に渡り荒らし回った。
 闊達な性格に似合わず戦闘スタイルは静謐を旨とし、暴れ回るクルーに注意を奪われる敵の頭株を次々と血祭りに上げていく。名乗りを上げて正面から突撃をかけるケースが僅かに報告されているものの、未確認の点が多い。
 今年春期、ウィンダス沖でモグハウス管理組合受注の商船をたまたま襲撃したところを連邦艦隊に包囲され、船と乗組員を失う。曲折を経て商船の積み荷は無事奪還されるがミゥ当人の捕縛には到らず、消息の情報が求められている。
 備考:薄金甲冑の中の人

 以上、天晶某年度・アルタナ四国犯罪者名鑑(ジュノ親衛隊責任・編集)より当該項抜粋――



 ※   ※   ※



 月は隠密の敵と言う。
 あやかしでも飼っているらしき光が、白日のそれより尚克明に照らされるモノどもを暴き出し、払い様も無い影を纏わせる。真円が頭上に輝く夜は、その道に長けた者ならば皆、息を殺して暁を待つ。
 ――が。
(そんなの)
 すくめた肩を見た者はいない。
 望月を負う城壁の上に、影と同化した“人影”が在った。
(デキないヤツのただの言い訳さ)
 ふふんと得意げな呼気が流れる。巡回の兵が目の前を通っても、気づかれることは無かったであろう。両足を投げ出し悠々と月を仰ぎ見る、黒髪のミスラの存在そのものを。
(…綺麗だ)
 溶けるような目と、唇だけが讃美の印を切る。月は光曜日に限るね。それもしっかり丸っこくないと――
(……?)
 と。
 不意に、感覚に何かが障った。
 触覚、聴覚――いずれの五感とも判別出来ぬうち、変化は視覚に訴えかけてきた。皓々たる月の一角を穿ち、こちらも真っ白なヒトの輪郭が現れる。エルヴァーン族の、男、か。
(女の月見を邪魔するたぁ…)
 眉根を寄せる。無粋な男はミスラより高く、城壁の好位置に陣取っていた。影になる必要が無いのだろう。自分と違って。
(邪魔だねぇ)
 やむなく場所替えを決意する。もう二、三箇所、気に入りの月見スポットが有るのだ。道順と現在の歩哨の配置をすらすらと脳裏の地図に描きつつ、そちらへ向かおうと腰を上げ――
 そして、そのことが運命を決めた。
 男が、こちらを見ていた。
(…………)
 息を……呑む。
“白い”と感じたエルヴァーン族は、常闇の色に包まれていた。ローブも、袖からのぞくガントレットも、ソルレットも。
 ただ、目深なフードの奥から覗く種族特有の秀麗な面差しは、或いは今宵の月よりも白かった。何故かトボけているような、喜んでいるような両の瞳が、ミスラのそれを映し出している。
 こい…つ…?
「おや…」
「!」
 穏やかな声に、解き放たれたようにミスラは疾った。白――いのか黒いのかよく判らない男の懐へ刹那に殺到する勢いを、危うく月も捉え損なう。
「シッ!」
「おっと」
 逆手に抱いた黒塗りの太刀が目標の一寸前で空を切る。避けられたと意識するより早くもう一方の刃を見舞う。何かと交錯、火花が散った。黒き大鎌、デスサイズ。
(どこから…!?)
「足下から」
 長柄の主は笑み含め言った。その辺に放り出していたのか。それであそこから把握し損ねた。
「しかし、穏やかでは…」
「くっ!」
 ミスラは跳ね飛び、間合いを空けた。逃げるべきだった。男に一声上げられてしまえば十重二十重に兵が押し包んでくる。いや、その前にこいつに斬り捨てられるかも――
「穏やかではないようだね」
 声は、あくまでも穏やかだった。
 石畳に立ち――ミスラは思わず愕然とした。ぴくぴくと動き、耳がその声を聞こうとしている。ここに居させろと、響きに自分を傾けさせろと強く主張して譲らない。
 何故……?
「月は静かに見るものだよ。黒鯱のミゥ」
「静かだろ…一応」
 ――舌打ち。
「どうしてあたいがミゥだと?」
 馬鹿。逃げろ。どうでもいいだろ。
「珍しいからね。黒髪のミスラは」
「それだけで?」
「犯罪者の手配書はよく見ているのさ。一応そういう――商売?でね。もっとも」
 男が笑った。凄惨な匂いを纏う変化に、何故か引き寄せられる気がした。
「…さっき生え際を見た。染めているんだね」
「金髪ダメなのさ。光を弾くだろ」
「月によく映える」
「見てくれる人も……居ないんでね!」
 疾駆。
 再び男へと突っ込む刹那、ミゥは完璧に“影”と化した。超前傾の半匍匐走行。石畳を縫う黒き烈風。
 水面下、獲物へと迫る迅雷――鯱。
「滅!!」
 一閃。
 光無き牙が望月を裂く。男のローブを、鎧と肉を易々と突きえぐり、螺旋を描きつつ上空へ――
 昇らなかった。

 からん
 刃が取り落とされる。
 男が息を吐く音が揺れる。
「ふぅ」
「なッ…」
 全身を蝕む脱力感に、ミゥは発達した歯を噛み締める。
 斬った瞬間、何かが脱けた。がくがくと笑う膝を無視して、凄まじい形相で男を睨む。眼光は衰えず。肉喰らふ、獣。
「あんた…!」
「効果が切れてなくて良かった」
「化け物か!確かに斬っ…」
「吸血鬼、さ」
 脇腹から喉へ、確実に裂いたはずの軌跡に紅い光がまとわっていた。波が引く様に消えたその跡に、着衣の破れひとつ残らない。
「もっとも今のは、いわゆる暗黒魔法というやつだ。接触面から生命力を吸い自らの糧とするドレッド・スパイク。心得の有る者はみんな使える」
「血を吸ったのかい」
「ああ、良いねその表現。今度誰かに教えてあげよう」
 冗談ともつかない口調だが、何となく――極僅かに――頬に赤みが差したので本気だろうとミゥは思った。吸血鬼という呼び名、実は気に入っていたりするのか。
 吸血鬼……吸血鬼ねえ……。
「教え子のアテでも有んのかい?ノヴァルマージュ」
「何人かね」
 無造作に首肯。候補者の顔を思い描くのか、視線が妙にそわそわと動く。
「そりゃ意外」
 言って、もう片方の刃も投げ出した
 石畳にへたり込む。顔だけは何とか気張ってみせたが、尻尾の先っちょも言うことを聞かない。往年の黒鯱もここで御用、か。
「…月がさぁ…」
 再び、両足を投げ出して。
「ん?」
「好きだったよ」
 いつもと全く同じ姿勢で、白く輝く真円を見上げた。
 ひとつ違うのは、誰はばからず月明かりに身をさらしていること。クルタダ一味とも互角にやりあった、懐かしきヘヴンズ・オルカ号の甲板で、子分らとともにそうしていたように。
「潮の流れを教えてくれてさ、そりゃあ頼りになると思ったら嵐が来た途端いなくなりやがる。おさまったらすぐ戻って来やがって!そんで毎回、どのツラさげてってみんなで騒ぐんだ。そのまま宴ンなったりしてねー…酔って見るあいつは格別だったよ」
「月下の黒鯱が、堕ちたものだね」
「ミゴヤの鎧がケチのつき始めさ」
 ミスラは振り仰ぎ、けたけたと笑う。
 ――半年ほど前。
 ミンダルシア沖のミゴヤ海域で、黒鯱は一隻の商船を襲った。後生大事にされていた積み荷は東方仕立ての無数の甲冑。値打ちモンだと喜ぶ間もなく、接近していたウィンダス艦隊にヘヴンズ・オルカは包囲され……。
「鎧に秘められた力を借りて、その場は何とか突破してのけた。だけど船は沈められるし、陸に泳ぎ着いたら着いたで木刀持った冒険者たちに根こそぎ袋だたきにされるし」
「詳しいね吸血鬼」
「ツテが有るのでね」
 命からがら、鎧も――そしてクルーも捨てて、ミゥは集団リンチから逃げ延びた。手配書が全国に出回ったようだが、元々が忍の血を引く彼女に捜査をかわすのは容易いことだった。少なくとも木刀の雨よりは、遙かに。
「実家に迷惑かけたくないから、天晶堂にも駆け込めないだろう?もう暫くは逃げてられると思ったんだけど」
「ふうん」
「あのお月様見上げながら、さ…」
「そうかい?じゃあ」
 いつの間にか――
 監獄の主は、ミゥの隣に腰掛けていた。
「これからはここには来ないことにする」
「あ?」
 ポカンとした。
「邪魔だろ?僕がここで見てると」
「…あ?」
「幸い月見スポットは他にも幾つか知ってるんでね。ああ、良かったら案内しようか。人目をしのげる所も多いよ」
「……………」
 また、眉が寄るのを自覚する。ねじ込むように監守の横顔を凝視してやるが、どこ吹く風と受け流される。
 ………。
「ええと」
「ふむ?」
 ノヴァルマージュが見返してくる。
 何故か挫けそうになる自分を叱咤し、ミゥは根気強く続けた。
「あたいさ、お月様見納めなんだよ」
「どうして?」
「あんたに捕まるからだろ!」
「どうして?」
「ブタ箱の役人だろ!あんた!」
「ボストーニュ監獄は国事犯専門の牢獄だから、君みたいな外部のアレは管轄外なんだ」
「そーいうことじゃあ…」
「そういうことさ」
 ノヴァルマージュは肩をすくめた。
 そして――すいっと立ち上がる。
「賞金首一人捕まえるより、月見友だちを一人増やした方が楽しい」
「たの…」
「怒られたら出て行くさ。もっとも、吸血鬼のやることにいちいち説教垂れる輩もこの国にはいないらしいけど……ね」
 言い終えて。
 城壁から飛び降りるモノトーンの男が、微かに笑んだような気がして――
 取り残された黒髪のミスラは、暫し呆然と監守のいた空を見詰め続けた。
 一心に光を降り注ぐ月が、片隅で静かに傾いていった。


 翌日。


「……………」
 ノヴァルマージュは流石に絶句した。
 就寝前――と言って、ものの二時間も眠っていないが――には確かに空いていた獄のひとつに、昨夜のミスラが上がり込んでいた。
「おっす」
「……オッス」
 おずおずと挨拶を返してやると、「ようやく一つ勝った」とばかりに海千山千の笑みが飛んできた。

「どういうことだ」
「実験材料兼実験台です」
 詰問に来たクリルラに対し、監守は吸血鬼顔で言い切った。
「昨夜拾いました。彼女ほど強靱な心身の持ち主なら容赦無く人体実験が出来ます。提供してくれる薬料も多い」
「薬料……き…貴様…」
 騎士団長は絶句している。階段の壁に書き殴られた『黒鯱のミゥ様御宿牢』の文字に上が大騒ぎになって彼女が派遣されてきたようだが、対吸血鬼外交官にはさしものクリルラも役不足であると言わざるを得ない。
「バケモノ呼ばわりがエスカレートするぞ」
「何を、今更」
 含み笑ったその迫力――恐怖――に腰を砕かれ、隻眼の女将軍は溜め息混じりに引き上げていった。

「やれやれ」
「世話ァかけるね」
 ぬけぬけと言う黒鯱と、監守は格子を隔て向き合った。
「縛り首にされても知らないよ?」
「そんときゃ逃げるわ。ここカギ開けてねぐらにしたのはどこの誰だと思ってんだい」
「ついつい職務責任を感じるな……」
 微妙に眉を曇らせながら、一応はめた囚人の手枷に目を向ける。とっくに外されて牢の片隅に転がっていたが。
「居心地の良いねぐらとも思えないけどね?」
「そうでもないさね」
 にっと笑って、ミゥは床面に足を投げ出した。月見のポーズで、機嫌良くノヴァルマージュを見上げる。
「ここは静かさ。月を見るには丁度良い」
「月?」
「ここに出る月は昼間も見れるしね」
「……夜はいないんだが」
「じゃ、すぐ寝ちまお」
 やれやれ、と月がきびすを返した。
 悪名と。そして、体質と。
 それぞれの理由で陽の光を避け、夜天の主に仕える男女は、浮かんだ笑みの理由を求めて暫し監獄の闇に揺らめいた。


 蛇足。


「……つぅわけでぇ…♪」
「はいはい」
 妙にくねくねする黒・金まだら髪のミスラに、ノヴァルマージュは適当に手を振る。『しっしっ』のジェスチャに見えなくもない。
 ミゥはまたぞろ東方仕立の甲冑を身に着けていた。「女神様からの贈り物♪」らしい。
「実際には?」
「さあ」
 ノヴァルマージュの眼前で、虚空から出現した謎の鉄櫃。その中に有ったアイテムの最後のひとつを手に取りながら、るんるんと解錠作業を進める。監守は最早何も言わない。
(シナイ……と言ったかな。何かで読んだような…)
 竹を束ねた剣状の物体と、こちらは紛れもなく実戦仕様の黒い兜をおっ担ぎ、“脱獄”したミゥは頭を下げた。
「じゃ。行ってくるわねっ!」
「ほどほどにね」
「合点!!」
 ビシッ!と敬礼し、いつぞやに見せたままの勢いで娑婆への階段を駆け上がっていく。たちまち罵声と怒号が飛び交い、何やらやたら痛そうな音が滅多やたらと連発されて――静かになった。
(ほどほどにしろと…)
 頭痛。
 何だか泣きたいような気がした。監獄を一応の住まいとしてから、こんな気持ちになる日が来ようとはまさか夢にも思っていなかった。
「……無事で」
 呟く先は、薄金改め沢潟――おもだか、と読むらしいが――甲冑の中の人か、或いはそれにノされる者たちか。
(両方)
 極めて無難に、監守は自答した。



 おしまい。
[PR]
by sasop | 2008-10-25 00:29 | FF11小咄
<< 愛の翼に勇気を込めて! 料理の基本は火力也 >>


からっぽなう
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30
カテゴリ
以前の記事
巡回先
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧