さそり庵



悪鬼、西方より

悪鬼、西方より



 喊声が止んでいた。
 一瞬前まで、その平原は戦場だった。東方より攻め寄せる白地に『十』旗の武士団と、双頭蛇旗の皇国軍。後者の敗勢は覆しようもなく、幾日にも及んだ激闘が遂に決着を迎えようとした、その矢先。
 天より来たりし煉獄が、東国の軍に風穴を開けた。
 或いは地獄へと続く門を――か。
「こ…れは…」
 武士の一人が、未だ轟々と黒煙を吐くその穴の淵へ歩み寄る。あまりの高熱に、噴き出した汗が手傷に滲んだ。
 先鋒の軍の、そのど真ん中。一間ほどもある――火口、或いはクレーターとでも言うべきか――の内にいた者は影すら残さず消滅し、同時にその近淵にいた者たちも衝撃波とめくれた土砂に打たれて累々と横たわっていた。
(アトルガンの地雷火か?)
 だとすれば、敵軍が止まった説明がつかない。この平原を灼き抉ったのは、戦場に在る誰一人として想起しなかった、極めて唐突で理不尽な、何か。
「見ろ…!」
 足軽の声に、彼は火口の底に目を凝らした。そこにゆらりと揺れるもの。燃え上がるヤグードの羽根たちを払い除け、焦熱地獄をその足で行く、影。そう、それは人影。
「何者かァ!!」
 一斉に構える、槍、弓、刀。若年より数多死線をくぐった荒武者は、しかしその中で思っていた。
 何になる?
(いくさ場を穿ち、その炎に自ら灼かれて朽ち果てぬ悪鬼に、かようななまくらが何になる…?)
 躊躇とも諦観ともつかぬ思念に惑ううち、歩み来る者が頭上に手をかざす。同時、落下してきた何かがその掌におさまった。
 ――腕。
 焼け焦げたヒトの腕。
「鍛えてんなあ」
 悪鬼が言った。笑み含む、短い男声ひとつに、武士団が一歩後ずさる。
「やっぱりてめえらと殺りあうのが最高だ。最高に愉しい……そうだろ、ええ?」
 男の四肢より疾(はし)った雷光に、腕が粉々に砕け散る。
 纏う鎧よりなお赤き、冥府の焔を背に負うた男は、がばと面(おもて)を天へ上げ――両の口の端を夜叉と成し、吼えた。


「ええ!? そうだろう!! ッ――ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 皇都の白い石畳を蹴り、ガダラルはアーケードの内へ駆け込んだ。
 数瞬遅れて、トロール、スコーピオン、ワモーラの群れがその背を追って現れる。開けた競売所の空間が、彼らの眼下に広がった。
 同時。
「閉門!」
 蛮族がたった今通過した扉が、振り向く間すら無く閉ざされる。
『!?』
 動揺する者たちが次に見たのは、伏せ手の魔道士部隊が生み出す圧倒的な“死”の光――
「殺れぃ!!」
 雷が、水流が、土砂が、凍気が。四八方より喰らいつき、彼らを無間の地獄へと突き落とす。
『オォォォォォォ…!』
「じゃあな」
 轟!!
 その断末魔を掻き消したのは、噴き上がる天高き炎の柱だった。
「……ち」
 息をつき。
 屠った者たちへの感慨も無く、ガダラルは骸の群れへと歩み寄る。無言で叩きつけた鎌の切っ先が、わずかに残っていたトロール兵の命の残り火を消し去った。
(……手応えのねぇ…)
 胸中で毒づき、ガダラルはその場に胡座を掻いた。指揮を執る気無しと見た側近が、周囲の兵たちに呼びかけ始める。任せておけば間違いは無い。
「傭兵たちを他へやらせます」
「早くだ。鬱陶しい」
「はっ」
 とげとげした物言いにも、側近は動じない。皇都以前からの長い付き合いで、この手の遣り取りは慣れたものだ。
「他はどうなってる?」
「押し合いです。敵には後詰めが有る模様ですが、もう一、二陣も崩せばあとは時間の問題でしょう。現在、水蛇将隊が大通りまで出て共同戦線を展開中」
「傭兵どもの押し方を見て何処かに割り込む。それまで欠伸でもしておきな」
「――お待ち下さい」
 突如。
 背後の物陰に現れた気配を、ガダラルの眼光が貫いた。
 渋柿の衣を着た、痩せこけたヒューム。頭巾に顔が隠れて性別すら明らかではないが、見慣れていた。
「…“蜘蛛”か。どうした」
「ツクモが危急にございます」
「何…!?」
 思わず体ごと振り向いた炎蛇将の全身に、一転して焦燥と緊張が満ちた。

 ツクモ地区。
 いわゆる東部戦線の中でも皇国の勢力が押し込んだ地で、延々と引かれた塹壕のラインより前にある唯一のアトルガン領。今は炎蛇将として皇都の守りに就くガダラルが『羅刹』として名を馳せたのは、まさにそのツクモ攻防戦においてであった。
 それが――
「何があった」
「いえ、私には。過日、東国軍が塹壕を出でて砦を目指し、それを一目御覧じた司令官殿より貴殿の召喚を命ぜられた次第」
 ガダラルの、と蜘蛛は言った。
「戦は見てねえのか」
「御意」
「司令官は――ハキームは何と?」
「『敵方に陽炎の昇る在り。ツクモの百代既に決さば、人の砦にて御来到を待つ』」
「ンだ、そいつは…!」
 奥歯を慣らし、ガダラルは猛然と立ち上がる。
 わなわなと震えがこみ上げるのを、自覚する。栄光の地が荒らされる怒り。馴染みの戦友を想う焦燥。そして。
 ――そして。
「ジャーダル、ここ守れ!オレぁ行くぞ!」
「な、なりません!」
 側近が慌てるのも道理。五蛇将が無断で皇都を空ければどんな罪過が下るかも判らない。そうでなくても、今は防衛戦のただ中なのだ。
「それがどうしたぁ!俺は元々あっちの」
「………」
 す、と。
 駆け出そうとする眼前に、不滅隊士が立ちはだかった。
「お止めを」
「どけ」
 青魔道士には二本の刃。手に持つそれと、眼光と。
「将の責を放棄なされば、この場で御命賜るより有りません。どうか我が一命を以て、お鎮まりく……」
 ご…お…
 音を立て。
 隊士の口許を覆うフードが、炎に染まり、灼け消える。
「ど・け…………!!」


「フン」
 ツクモ平原。
 遥か西より戻った悪鬼は、久方ぶりの東国武者たちを睥睨する。自ら生み出した地獄の底から。
「知らねぇ顔も増えたじゃねえか…」
 ――羅刹。
 ひとつ、小さな声が挙がった。
「羅刹…羅刹だ……帰ってきた……!?」
 年かさの弓兵の震えた悲鳴は、さざ波のように全体に広がる――
「羅刹!」
「“千人灼き”のガダラルか!?」
「そんなはずは無い!ヤツは皇都で炎蛇……」
「オレをその名で呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 咆吼――
 ざりっ、と、足下の焦土が鳴る。
「貴様らがオレの庭に好き勝手してるって聞いたからなぁ…燃やしに来たんだよ!消し炭にしに来てやったんだ!まずはどいつからだ……また会えて嬉しいぜ、なあ畜生ども!?」
 大鎌を振り上げ、駆け上ろうとする羅刹の耳に、何かが打ち鳴らされる音。
 退き鉦。
「…ちっ」
 潮が引くように退がる敵軍を、しかしガダラルは追撃しなかった。
 今は――
「よお」
『ガダラル様――!!』
 振り返れば、全軍をあげて放たれる、英雄の帰還を喜ぶ鬨に、ガダラルは片手を揚げて応えた。

「よく持ち堪えた!」
 ツクモ司令官ハキームの胸を、ガダラルは拳で突いてやる。
 皇都で蜘蛛の知らせを聞いてから、既に四日。伝令が走ってから八日もの間、彼らは戦い続けたことになる。それも籠城でなく、野戦。
 久し振りに登った城壁からは、数限りなく横たわる屍体と、ガダラルが開いた“地獄”の跡が見て取れた。遠く退がって陣を整えた、白地に『十』の旗もまた。
 ――あのタヌキじじい、元気そうじゃねえか……。
「申し訳御座いません。あれだけの犠牲を…」
「貴様はオレを呼んだ。オレが来るまで耐えるのが使命だ」
「御意…!」
 スキンヘッドのヒューム族は、滲んだ声で拝礼した。
 彼も知っているのだ。もうツクモは保たないと。
 報告を受けたが、帰還できたのは全兵数のわずか三割。アトルガンの疲弊した国力では、広大な国土のどこからもこれを補う兵数は出ない。仮に出たとして、ここにいる傷ついたわずかな者たちは戦う力を残していなかった。次に総攻めを受ければ、最早――
「何が有ったんだ?」
 あらゆる感情を押し殺し、問う。
 武士団の背後に、急険な丘がそびえている。余程の切り札が無い限り、あれを越えて攻勢に出るのは不可能のはずだった。ガダラルがルガジーンの招きに応じてここを去ったのも、一重にはその安心感からと言って良い。
「…赤い将です」
「敵の新顔か」
「は。緋威(ひおどし)の鎧たった一人に、数百は討たれました。彼奴の刀が、火を吐くのです」
「火…」
 ガダラルの両眼がス、と細まる。それで、陽炎。
「攻め寄せる敵軍の中に彼奴の炎が昇るのを見た時、私はこれは駄目だと思いました。勿論、火だろうが何だろうが刀は刀、戦局を覆すものではありません。恐ろしいのは、彼奴自身」
「気焔ってやつか」
「御意」
 ガダラルは遠く敵陣に目を向けた。その緋威の鎧とやらか、陽炎の一筋でも見えはしないかと目を凝らす――
 と。
「何だ」
 兵の一人が、少し離れてひざまづいた。泥と血にまみれ、具足はボロボロになっている割に、傷ひとつ無いのに不審を覚える。
「申し上げます。水蛇将ミリ・アリアポー様以下百騎、皇都より援軍にございます」
「な…」
「そういうことだよ。ガダラル」
 手を置いていた欄干の上に、ミリ・アリアポーは既に座り込んでいた。

「馬鹿野郎!」
 ハキームが退がったのを確認すると、ガダラルはまずそのことを言った。
「何で来やがった!皇都の守りは!」
「キミに言われたくないな」
 返ってきたのは、思いの外硬い声。
「あの戦の後、すぐに追っかけた。ルガのお墨付きで、キミと二人で向かったってことになってる。聖皇様には事後承諾だけど――いや、それは今はいい」
 ミリはこちらを一瞥すると、欄干から下り正面から睨みつけてくる。
「将軍は、もともと二人だったり三人だったりしたんだってね? だから別にボクやあんたが欠けたって、そうそう大変なことにゃならないさ。最初からいないと判ってるならね……!」
 瞳に灯った怒りの色に、一瞬ガダラルが気圧された。
「判るだろ!? いるはずの味方が、いきなり消えるってどういうことか! 裏切ったのとおんなじなんだよ!」
 任せていた背後が無防備にさらされる。肩を並べて向かおうとした敵に、単身挑まざるを得なくなる。それは生死勝敗の別に直結してくることであり、古来よりひとつの裏切りによって覆された戦局は枚挙に暇がない。
 無論、そんなことはガダラルも知っていた。考えなかったわけもなかった。
 が。
「あの時、ナジュねえがどれだけ危なかったか…あんた、ちょっとでも思ったこと有るのかよ!!」
「知るか」
 ――空気が凍った。
 何を言われたか判らず、ミスラは一瞬立ち尽くす。そこだけを見れば、皇都で普段から交わす遣り取りと区別がつかなかったかもしれない。
 続いたのは、何人もそれを想起せぬ冷気――
「…何て言った…?」
 ミリの声は平坦だった。
 表情から温度が失せ、据えた目蓋の奥底で、目の前のヒュームを捉えている。怒りが臨界を超え、反転。
「もう一回言ってみな…?」
「知るか」
「ッ――」
 がっ。
 踏み出しかけた足が、止まった。
 思い留まっての制止、ではない。
 おとがいを上げたその喉を、ガダラルの右手が絞め上げていた。
 ぱさりと、ターバンがこぼれ落ちる。
「か………は」
「知・る・か」
 苦しさより、激情より、水蛇将が真っ先に感じたのは、恐怖だった。行為にではない。ガダラルの眼。そこに宿った、
(鬼気――)
「オレぁな」
 力を緩める気配も無く、男の声が耳を衝く。
「アルザビ捨てる覚悟で来てんだ。誰がどうなろうと知ったこっちゃねえ」
「ど…して…」
 苦痛から、涙が頬を濡らした。気づかない。耳を傾けるだけ。
「判ってねぇらしいから教えてやる。ここの連中は別に出せもしねぇ援軍なんざ欲しがっちゃねえ。オレだ。オレに来いっつったんだ」
 皇都への増援要請ならば、使者は皇宮に駆け込むのが道理。しかし蜘蛛はそれをせず、防衛戦のただ中に在るガダラルの元に現れた。恐らくはハキームが、兵たち皆が望んだままに。
 ――何故?
「庭だからだよ、オレたちの。ズラかることになったっつっても、それを教えてからじゃねーとなあ……ツクモはオレたちの天地ってことをよ!」
「ぁぐ…ぁ…」
 霞み、薄れゆく視界の中、二つの炎をミリは認めた。どんな水も、風も、決して消すこと叶わぬ炎。それを宿していることに、今までどうして気づかなかったのか。知りもせず前に立ちはだかるなど、どれだけ愚かなことだった――か――
「お、お許し下さいっ!」
 いきなり、傍らに添って平れ伏すヒューム。水蛇将隊、イパーフ。
「水蛇将は、ツクモ軍撤退の援護を命じられております。そ、それ以上は、遂行に支障を来たす……恐れが!」
 戦き、恐怖に震えながらも、必死に声を絞り出す。
「撤退……?」
「は、はっ!天蛇将様は、全てをご承知であられました!」
「ちっ…」
 あの野郎。毒づいて、ガダラルはミリを解放してやる。うずくまり咳き込む水蛇将を、イパーフが助け起こし、立ち去ろうとする。
「…勝手にしな」
「………ガダ…」
 かすれ、しわがれた声で、ミリ――
「皇都で待ってる……」
「てめえの仕事をするんだな」
 背中合わせの会話はそれだけで終わり、イパーフの足音が後を引き取った。

 闇夜。
 星も、月も無い洋(わだ)の下、武士団の灯す篝火だけがツクモを照らし出していた。皇国の砦に灯は無い。撤退したか、或いはそれに見せかけて伏兵を配しているか。なにぶんにも『羅刹』帰還の直後とあって幕将の間でも見解が一致せず、再攻撃は払暁を待つことになっていた。
 が、その必要は無いかもしれない。
 何故なら――
「クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
 哄笑――そして、爆発。
 陣正門にその両方が炸裂し、夜天を焦がす黒い紅蓮が赤い悪鬼を映し出す。
 敵襲!
 敵襲――!
「よぉ!来てやったぜ!!」
 再度、いや、三度の大魔法を解き放ち、群がり出でる足軽の中にガダラルは正面から突っ込んだ。血が舞う。大鎌と、凶気が踊る。
 この炎と喧騒を合図に、ミリに率いられた兵たちが砦から退却を始めるはずだった。示し合わせたわけではない。利害が一致しただけだ。
 闇に紛れれば追撃は鈍り、
 闇は立ち昇る爆炎を、最高に美しく演出する。
「そう思うだろう、クズども……!」
 大鎌が頭上で旋回する。高速。竜巻と化す切っ先に、熱き精霊の祝福が宿る。
「――まとめて灰にしてやるッ!!」
 轟……!!
 招かれ出でし紅蓮の蜥蜴が、取り囲む兵たちに殺到し――
「!」
 刹那、虚空に四散した。
 何かに打ち払われたかのように。
「…ほっほおぉ…」
 大鎌を担ぎゆらゆらと揺れながら、ガダラルは口許に浮かべた夜叉に更に血の色を塗りたくる。
 火蜥蜴が消えたその場所に、抜き身を振るった体勢で立つ武士。
 緋威の鎧。
 燃える剣。
 ――悟る。
「てめえが噂の…あれか。ああ?」
「………」
 眼光が絡み、ガダラルは全身が粟立つのを自覚した。
 この男、強い。だけでなく、何か――底知れぬものを持っている。超々高熱のマグマ溜まり。或いは、無数の星々の斜幕。例えるならそんな……何かだ。知らねえ。
「噂なれば、貴殿の方が上でござろう」
 落ち着いた声だった。
「たりめーだ。オレを誰だと思っていやがる…!」
 傍らをかすめさせた火球にも、侍は眉ひとつ動かしはしない。直撃した物見台が火柱をあげ、轟音とともに崩れ落ちる。
「まこと見事な戦振り」
「…?」
 言いながら、炎の刃が鞘中に納まったのを見て、ガダラルの表情がわずかに曇った。
 柄を放した侍の掌が――おもむろにこちらへと差し伸べられる。
「我が方に参られよ。羅刹殿」
「あァ!?」
「貴殿の望むはツクモの大地。相違無きや」
 意図が読めず、言葉を呑み込む――
「我等が国へ帰参の上は、貴殿をこのままツクモの領主に封じ申す。無論、かような戦地ゆえ即刻充分な繁栄を築くわけには参らぬが、それは追って……左様。略式ながら帝より勅をも賜ってござる」
「………」
 ガダラルは、なおも無言。
 返答を案じていたのではない。考えるのは全く別のこと。
 ――この野郎、そのために来やがったな……。
 東部で戦った期間は長いが、こんな男は見たことも聞いたことも無かった。恐らくは東国の都かどこかから特命を帯びてよこされたエージェント。西方の“羅刹”を引き抜くべく、庭を荒らしたというわけだ。
 大した諜報力と言っていい。こちらの素性を調べようにも、当人は遥か西にいたのだ。大袈裟な伝説と尾ヒレのついた噂にまみれてどれだけ難航を極めたか知れない。
 それほどに自分を買っている――のか。
「フン」
 鎌を左にひょいと持ち替え、侍の手を握ろうとする。
 その手が――中途で払われた。
 瞬間触れた侍の右腕、肘から先が炎に包まれる!
「……!」
「ッハ!――ハァッ!!」
 一閃!
 弧を引く大鎌、迎え撃つ太刀。火花を散らし、交差する。
「見抜きやがったなあ!いい眼じゃねえか!」
「貴様…!」
「ったく、てめぇはてめぇで調べが足りねー…!」
 両者の刃から噴き上がる焔。そのただ中に身を置いて、ガダラルは猛然と吼え狂う。
「てめぇらと殺れなきゃ意味が無えだろっ!!」
 ギィンッ!!
 打ち弾きあい、ガダラルが跳んだ。二つの烈火が貌(かたち)を変える。業火の内より飛翔せる鳳凰。そして――
「噴き上がれ、冥底の門」
「む……!」
 星眼に構える侍は、見た。
 炎の蛇を。皇国の将の四肢にまとわる、煉熱の鱗の八岐大蛇。彼の者が呪を紡ぐに連れて、更に大きく、禍々しくなっていく。
 逆巻けるまがつの風
 天衝きて砕け業火
 全てを喰らい
 祓い滅せよ
 とこしえの罪 汝が道を阻むこと也!
「名乗りな」
 来る!
「名乗りなあぁぁぁぁ!!」
「鳳凰丸に認められし、帝国侍大将が一……!」
 侍は再び太刀を納めた。心気滅頭、明鏡止水の境地の果てに、刹那、鳳凰の羽ばたきを見る。
「我が名、御子上天膳吉明!」
 鞘を疾りし火ノ鳥が、殺到する八岐大蛇を斬り裂く。ぞっとする熱量と衝撃に耐えて何とか刃を振り抜く眼前、既にガダラルが肉薄している。
「ぬうっ!?」
「ハッ――ハハハハハハハハハハ!!」
 哄笑に圧倒されるかのように、天膳は大きく後ろに跳んだ。ガダラルが追う。狙いをつける鉄砲隊が勢いを戻した大蛇に灼かれ、悲鳴が、怒号が交錯する。
「アトルガン皇国魔滅隊、“千人灼き”のガダラルだ!」
 黒煙に衣をはためかせながら、炎の悪鬼は傲然と猛る。
「たまんねぇよなぁてめぇらと殺るのは! これだから東部はやめらんねえ! 今日で最後か? 祭りは最後か! だったらとことん熱くさせろよ。あの頃と同じに愉しませてくれよ――!!」
 詠唱開始。周囲の炎が牙となり、四囲の焔が爪となる。紅蓮の明王を従えて、男は久しき修羅の巷を馳せ抜ける。
 雄叫びを挙げ、天膳が駆けた。激突、交刃。竜巻の如く火花を舞わし、呪を紡ぎゆく炎の蛇のおもてには、アルザビで決して見せること無き凶喜の笑みが刻まれていた。
 羅刹。その二つ名のままに。


 了


―――――
イメージの発端は導入まんま。自分が戦場ごと吹っ飛ばした敵の腕持って出てくるガダラル。ツクモ地区とか千人灼きとかは勝手にでっち上げたわけですが、こんくらい戦闘狂だったらいいなと思うのは私だけでしょか。つかずっとそうだと思ってたんですが。
皇国の羅刹は『狂鬼』にして『侠鬼』。単なる大火力の突撃馬鹿だったらひんがしの連中もそんな禍々しい呼び名はつけないと思うわけです。何となく。
[PR]
by sasop | 2008-10-25 00:02 | FF11小咄
<< 料理の基本は火力也 蒼い比翼と笹の枝 >>


からっぽなう
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
巡回先
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧