さそり庵



専門用語で俺の嫁

ウェディングドレス実装と聞いちゃ黙ってられねえ!
タイトルが色々ぶっ壊れてますが内容はそうでもありません。そうでもないと、思う。


専門用語で俺の嫁




 真の様子がおかしい。
 何かと判りやすい彼女のこと、近しい者ならすぐに察することの出来る変化だった。
 話していて不意にどこか遠くを見たり、時にはそのまま淋しげに笑ったりもする。一人でいるときの溜め息の多さも、誰も何も言わないが、既に皆の知るところとなっていた。
「活動に支障は?」
 無いと言う。むしろ、レッスンにしろ仕事にしろ、これまでより更に意欲的になり、関係各所を驚かせているそうだ。
 無理をしている。
 繰り返すが、判りやすい娘だった。

(あ)
 自動ドアが開いたとき、吾妻棟道は入ってきたのが真であることに気づいていた。
 事務所ではない(うちに自動ドアなどというハイカラなものは無い)。その近所にある小さな書店で、奥まった文庫本の棚にいる彼に、真は気づいていないらしかった。
(『lalala』でも買いに来たのかな?)
 菊地真愛読の少女雑誌の名が浮かんだが、先日事務所で律子と一緒に読みふけっていたような気もする。いや、あれは『うるるん』だったか?
 記憶を辿るまでもなく、真は少女雑誌が並ぶ棚とは別の方向に移動していた。目で追う。立ち止まったのは――
「…なるほど」
 棟道は呟き、棚からお目当ての剣豪小説を抜き取った。

 婦人誌コーナーに、あずさがいた。
 ウェディング・ドレスを身にまとい、表紙を飾る彼女の佇まいは、ただただ『荘厳』の一言に尽きる。発売前から事務所で何度も見ていたにも係わらず、改めて息を漏らしてしまうほど。手にとってめくると、巻頭個人特集で微笑む花嫁の笑顔が目に飛び込んだ。
「はあ…」
「――まーことー?」
「あ!?」
 聞き覚えのある声に呼ばれて、真は反射的に肩を震わせた。女性誌を背後に隠すのはそれよりもっと速かった、気が。
「む…棟道さん!」
「奇遇ね。その…すまん」
 何故か申し訳なさそうな事務員。妙に立ち位置が遠い辺りに、話しかけるべきか否か迷った名残がありありだ。それはそうだろう――こういう“見られたくない場面”に遭遇した場合、基本的にこの人は不干渉を決め込む。『見て見ぬ振りが身上』と、本人の弁。
 どういう風の吹き回しか、今回はさらに続けてきた。
「元気無かったのは、それのせい?」
「は、はあ…」
 真は肩越しに振り向いた。
 よくよく見知った純白の女神が、手の中でくしゃくしゃになってしまっていた。

 花嫁衣装と真と言えば、因縁浅からぬ取り合わせである。
 もう随分前になるが、彼女がウェディング・モデルの仕事をもらい、それを着る気満々で仕事場に乗り込んだところ、待っていたのは男役でタキシードということが有ったのだ。あのときは担当プロデューサーの「楽しみは本番(真自身の結婚式)に取っておこう」というスーパーフォローにより事なきを得たが、それでも人一倍こういったことへの憧れが強い真のこと、傷が残ったのは間違いなかった。
 実際――
「棟道さん…」
 事務所へ戻る道すがら、彼女の声は沈みきっていた。
「んん?」
「本番なんて、あるのかなあ」
「………」
 心持ち眉を上げる棟道に、真は力無い笑みを向けた。
「――無いと思うのか」
「女の子としての魅力、無いから」
 常ならず弱々しい声に、棟道は胸を詰まらせた。
 真が無理をし始めたのは、上がってきたあずさの写真を見てからのことだった。
 あずさは――まあ別格としよう。けれど、他のアイドルや小鳥を見るうちに、彼女は自信を無くしていた。自分以外の女性は皆、ウェディング・ドレスがよく似合う。歳を重ねれば、髪を伸ばせばと、自分に“似合わない”理由を必死に探したが、千早や春香、小鳥らの存在によってそれらは全て否定された。結局最後に残った“正解”は、最初から目を背けていた絶望的な回答だった。
 内面と、
 顔。
(認めたら諦めるのと同じだよ…)
 自分ではどうしようもないことだから。それに、アイドルとしてのアピール・ポイントである“中性的”或いは“男性的”な魅力を、自ら否定するわけにはいかなかった。仕事やレッスンにのめり込んだのは、いわばそちらへの逃避行為。女の子として失格なら、どこまでも格好良く染まってしまおう。身も心も王子に、貴公子に、と。
「――マニアックな話だがな?」
「え」
 真が棟道を見上げた。長身の彼と並ぶと、シャープな体つきも相まって彼女はとても小柄に映った。
 事務員は自分でも確認するように、
「俺ら野郎の見方からすりゃ、あのときは寧ろお前さんに“着てほしくなかった”って向きも強いぞ」
「って……ドレス?」
「ああ。何でか判るかな」
 唐突なもの言いに戸惑ったが、真っ先に浮かんだのはやはり「似合わないから」だった。
 それを告げると、棟道が声を上げて笑った。
「な、なんです?」
「安心しろ真。そこがわかんないってことはお前さん立派に女の子だ」
 明るいが、からかうような言い方ではない。まじまじと凝視する真に、棟道も笑みを引っ込めて、
「男心の機微ってもんだよ。もう一回言うが、男性ファン、の一部、としては、真にドレスを着てほしくなかった。だって」
 身を乗り出すと、目が合った。
「――自分で着せたいからな」
「へ……?」
 何を言われたのか判らず、ぽかんとする――
「ウェディング・ドレスの真は見たい。……ああ見たいさ当然のこった。でも、俺らとしては“ただ単にドレス”ってだけじゃ駄目なんだ。自分が用意したヤツじゃなけりゃな」
「ちょ、ちょっと待ってください」
 真は慌てた。白いドレスを着せる。用意する。それはつまり、要するに――その――
「皆まで言うな」
「えええええーっ!?」
 悲鳴。事務所までもうだいぶ近づき、辺りに人通りはほとんど無い。対照的に、頭の中は半ばパニックになっている。
「そ、そういう!?男の人って、そういう…?だってボクこんなだし、カメラの前じゃ王子様だし」
「男のマジ惚れとはそういうもんだ」
 地球上に住まう同性数十億の総意のように言い切ると、棟道はもう一度笑みを深めた。やや悪戯っぽい趣だった。
「だ・か・ら。そんな困ったニーズに応えて、もうしばらく花嫁はガマンしてくんな。モテる女はツラいやな」
「モテるなんてそんな…そうかなあ、へへ… 」
 嬉しくて、照れくさくて、真は笑った。この辺の単純さが更に需要を増加させるのだと、彼女自身は気づいていない。
 そんなふうに思ってくれている人がいるなら、自信を無くすなんて失礼なことだ。自信を持っても――いいということだ。
「あ、でももし着る仕事が来たら…」
「万々歳だろ」
「ですよね!やっりぃー!」
 ぶんっ!と必殺の拳一閃。
 内心の昂揚を示して早足になる真の背中を、誰にも聞こえない棟道の小さな呟きが追いかけた。
「……うん。やっぱ似合うと思う」




おしまい。


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DA☆KA☆RA☆
アイマスで男心を語るなとあれだk
馬鹿者ォ!「愛する可し」と書いて「可愛い」!男が女性(にょしょう)を愛(め)で描く時点でそれはおしなべて男心よ!そういう問題じゃないですか!ごめんなさい!
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by sasop | 2008-08-07 20:20 | 書いてみたシリーズ
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