さそり庵



【国綱P】『Black Fencer』を無断でノベライズしてしまった



い、今は寝ますぅ。詳しくはまた、今夜にでも。
国綱P、もし万が一これをご覧になることがあれば――ごめんなさいorz





 その涙は零れた水のために流すのか。
 それとも、満たされていたかつての水を想うて流すのか――


    ※  ※  ※


 レーダー中央に人型の熱源。
 人類の平均を大きく上回る移動速度で離脱していくその熱源を、『彼』は高揚に似た想いをもって捕捉する。
 飛行ユニットの出力増大、冷たく冴えた金属の四肢を振るって姿勢制御。爆発的な推進力で、ひた走る熱源をあざ笑うように距離を詰め――
≪エネルギー・ブラスタ、シュート≫
 胸部搭載の光学兵器を解き放つ。一秒弱で収束を終えて飛び出した青白い光球が、入り陽の廃墟を一線に薙ぎ、熱源――いや、今は目視可能となった“標的”の足元に着弾、炸裂。その衝撃が、標的の小さな体を跳ね上げた。
 それだけを確認し、『彼』は飛行ユニットの出力を落とす。標的を捉え損ねたことも、交通事故級のインパクトを受けた標的がすんなりと受け身を取って、アスファルトの上を転がることも、全て想定の内とした上で。
 光学センサが示す“標的”は、二、三、肩で息をしながらも二本の足で立ち上がる。当たり前のように。
少女。データによれば、齢16。黒のタンクトップから伸びたシミひとつ無い白い両腕は一見して華奢なようでありながら、その内側に鍛え上げられた筋肉の存在を主張する。一切の無駄をそぎ落としたしなやかなパワー、ネコ科の肉食獣に近しい。
 やはり黒の短髪と、双眸。それらが彩る面ざしは、眼前に在る死の具現――『彼』だ――を認めて引き締まるのを差し引いても、男性的な色合いが強かった。
(データとは若干雰囲気が違うか)
 首をひねるでもなく、思う。自らが抱いたその違和感が、カメラ越しの画像データでは決して捉えられない特殊な要素――俗な言葉で言えばオーラとでも言うべきものによることを、『彼』は知らなかった。
『彼』。機甲兵、人造機甲知性体・トルーパーは。
≪追いつめたぞ、キクチ・マコト≫
 音声を出力。ほぼ同時、複合金属の足裏が標的と同じアスファルトに降り立つ。
 同じ目線で見るその少女は、やはり事前の情報と大きく異なる印象を持っていた。それは前述のオーラによるものか、同年代の平均を下回る小柄な体躯と、それとは不釣り合いな鋭い眼光のギャップが生むものか、果たして。
「追いつめた?」
 少女の声に怯えは無い。こちらを貫く瞳との違和も。
「違う。ボクが“誘い込んだ”」
 言い放つキクチ・マコトの背後に、高々と街壁が横たわっている。左右ともにビルに阻まれ、完全な袋小路。逃げ場は無い。
 だが同時に、四方数キロに人影も、無い。
「ここなら、周りを気にせず、全力で戦える」
≪滑稽≫
 電子音声に嘲笑が混じる。
 ハッタリと嗤ったのではない。キクチ・マコトが、わざわざそのような誘いをかけることこそが、『彼』にはひどく可笑しかった。
≪大罪人スピローヴァの貴様が、人命を気遣うか≫
 その言葉に、少女の瞳がかすかに揺らいだ。
 怒りの炎、と、『彼』の人工知能がもう少し詩的かつ陳腐であれば、そんな言葉を遣ったであろうか。
「なら、お前たちの“正しさ”とは何だ?」
 反問。いや、糾弾の叫び。
「正しければ、何もかも許されると思っているのか!」
≪貴様の処刑を以て、その問いの答えとする≫
 胸部エネルギー・ブラスタ再展開。先ほどと同じ蒼白の光球を返答の筆として生み出だしながら、『彼』はひとつの名を口にする。『彼』を創造し、『彼』がその旗に全てを託した機構の名を。
≪……アンチ・スピローヴァの名の下に≫
 ディスチャージ。音速を超えて夕凪を裂き、直撃すれば背後の街壁すらたちどころに融解する断罪の鎌を前に、キクチ・マコトは動かない。『彼』は知っていた。それが、ギロティンにかけられ力無くうなだれた罪人の様でないことを。
 それは――
 轟!!
 直撃の刹那、上空より飛来した質量体が、光球を打ち砕き無へと誘う。
(!)
 人工知能に走る動揺。質量体の出現を、『彼』の大出力アクティブ・レーダーは感知し損ねた。四方数キロの熱源・音源を確実に捉え、キクチ・マコトの『誘い』の成功を裏付けた彼のレーダーが。事前に、それを予期していながら。
(馬鹿な)
「いいよ」
 その声と、質量体の形状を知る。
 確固たる反逆と攻撃の意志。そして、それを表す人間の身長とほぼ同サイズの、刀剣に酷似したフォルム。
 その奥で、少女が小さな掌を掲げた。掌中で、何か紫の光が爆ぜる。質量体の『鍔』に相当する部位に同様の光の塊があることを、『彼』は今さらながらに意識した。二つの光を重ねるように少女が突きだしたその掌に、金属的な光沢が現れていることも。
「お前たちみたいな奴等が正義だと言うのなら……」
 同時。
「ボクは、喜んで悪になる!」
 キクチ・マコトの全身を、帯状の赤光が取り巻いた。血の赤(ブラッディ)。血の彩の表面に縦横に走る幾何学的な白のラインは、質量体から出力された何らかのデータ・コードか、それとも――
 罪人に刻まれる永遠(とわ)の刺青か。
 後者だと、アンチ・プローヴァの機兵は想った。紅白の光がキクチ・マコトの四肢へ食い込み、直後、複数に分離した質量体のパーツが、自律的にその上から少女を覆う。
 剣から鎧へとその姿を変え。
 全身を包み込む黒のボディ・スーツ、及び、要所を固めるグレイの装甲。機械鎧(メック・アーマー)。
 否。
≪装着剣――ブレイデバイス、か≫
 電子音声がその名を呼ぶ。
 そう、少女が纏うは鎧にあらず。痩躯を覆うそれそのものが、ひとふりの“剣”。攻性兵器。
 極めて無骨な、それでいて洗練されたシャープなシルエットをもつ“剣”にあって、左の肘から生えた“刃”が己の意味を主張する。主を護る壁でなく、主の敵を討つ必殺の――刃。
≪その力≫
 自らの喉首へ向いた剣へ、機甲兵は銃口を向けた。左のマニピュレータにマウントされたマシン・キャノンの直撃を受ければ、少女はいとも容易く砕け散る。纏うのは、鎧ではないのだから。
≪……如何ほどの物か!≫
 鋼の奔流が咆哮を挙げた。
 超絶の反応速度をもって、“剣”はその射線をかいくぐる。追いすがる銃口を置き去りに、銀の装甲が一瞬に間合いを詰めるのを捕捉。イン・ファイトへ。
 飛行ユニット緊急展開。繰り出す剣閃をわずかに飛んでかわしざま、お返しとばかりに振るった脚が、同じく振るわれた“剣”の蹴りに弾かれる。間髪いれず追撃が来る。速い。ブレイデバイスはこちらの予想を、いや、あるいは『彼』の反応限界速度を超えている。
(これは……!)
 有るなら舌うちでもしたい衝動が、人工知能を掻きむしる。罪人が跳び上がるのを捉えざま、不意打ちの胸部バルカン。効果無し。やはり寸前で体をかわされ、むなしく後方のアスファルトを掘り返す。空中移動の自由すら、少女の“剣”は保障するのか。
(しかし)
 続けて振るったマニピュレータが、一時的に罪人を追い払うことに成功する。しなやかな肢体は身をひねり着地、左腕の刃と眼光とを同時にこちらへと向けるその様を美しいとすら感じぬままに、『彼』は猛烈な攻勢に転じた。
 パワーで分が有るのはこちら。さらに、いかにあの“剣”が優れていようと、反応速度はしょせん人間のものでしかない。一旦守勢に回ってしまえば、その限界を遥かに上回るトルーパーとの格闘戦に、到底ついてこられるはずは――
 罪人の剣が一撃を弾いた。
(………!!)
 虚ろな衝撃をフィルタで自動除去、人工的な“冷静さ”の中で、『彼』は無数の刺突を繰り出す。どれかひとつ、軽くかすりもすればそれまで。複合金属製の名刀は“剣”の下の骨まで断ち割り、動きを鈍らせた小柄な少女は、そのまま血の海に叩き落とされる。
 どれひとつとしてかすりもしなかった。
(!!)
 苛立ちが生んだ一瞬の空隙。見逃さず、キクチ・マコトは跳躍。全身のバネを乗せた左腕の一撃を受け、人工知能は今度こそ消しきれぬ戦慄に回路を侵された。許容衝撃量をオーバー、重量にして一割にも満たない人間の突きで、機甲兵は大きく吹き飛ばされる。
(馬鹿な!)
 背中から街壁に突っ込む直前、飛行ユニットが揚力を確保。辛うじて滞空状態に移行する。
≪咎人め……!≫
 右腕の固定武装、大型のビーム・ブレイドを展開。メモリに存在する格闘戦のデータを根こそぎひっくり返す勢いで、次なる戦術と未来予測を組み立てていく。
 ブレイデバイスの脅威指数を上方修正。各部リミッタを強制解除。『油断』を排除し、機甲兵はギアを『全開』へとシフトする。
 が、
(それでも、果たして討ち果たし得るか)
 そのノイズを、『彼』はどうしても除去出来ずにいた。
 何故なら。
「咎人じゃない」
 少女が放つ次の言葉を、どこかで受け容れてしまったから。
「……ボクは」
 ブレイデバイス、右脚(うきゃく)装甲展開。内から現れたスロットに白兵武装らしき物体を識別(みと)め、脅威指数がさらに上昇。ビーム・ブレイド。
 キクチ・マコトが手にすると同時、その筒状の兵装は黄昏の空に抜き身を晒した。紫の彩に光り輝く、流体光子が一刃を。
「ボクは、戦士(Fencer)だ!」
≪ふん……≫
 ブースターの出力をMAXへ。自ら巻き起こす烈風を冷めた装甲に受けながら、人工知能に『彼』はわずかな『さざなみ』を感じる。
 戦士を名乗る咎人に対する、それは、明らかなる嘲笑と――
 ほんのかすかな、敬意に似た、想と。
 何と戦おうと言うのか。飽くまで戦おうと言うのか。
 それを問わんとするでもなく、機甲兵は“戦士”と斬り結ぶ。宙空で。どう見ても飛行ユニットなど積んでいないはずのブレイデバイスは、小柄な少女をその意のままに、入り陽の空に舞い踊らせる。そのことに今さら驚くきもせず、『彼』もまた虚空に螺旋を描く。“戦士”とともに。“咎人”とともに。
 腰部バズーカ・レーザ、シュート。
 大口径の銃砲から飛び出す無数の光条が、回避行動に移る“戦士”を自律誘導にて連携追尾する。だが容易には捕えられない。“剣”がこの空に描く軌道は、既存の物理法則をあざ笑うがごとく、慣性を感じさせぬ異様な速さと鋭さをもってレーザ・ビームをかわし続ける。
 笑いたいのは『彼』の方だった。確認した。やはりかの者の力は異常だ。その動き。その力。戦意の昂揚ただそれだけで、貴様はこの世の理を容易く凌駕する。
 それこそが貴様の――
≪咎人たる所以!≫
 半ば力を失いかけた光の猟犬の狭間を駆け抜け、ついに『彼』自身が“戦士”へと迫る。マシン・キャノン。不発。逆にブレイデバイス左腕(さわん)よりハンド・ガンが出現、こちらへとビーム光を撃ち返してくる。数発を続けざまに回避し、『彼』はブースターの出力を臨界まで上げた。勝負。音声出力デバイスから吼えんばかりの『戦意』もて、右腕(うわん)ビーム・ブレイドを振りかざす。『彼』自身の装甲すら容易く両断する大出力、そして速力。受け得るものでは――
 少女の“剣”はそれすらも止めた。
 止めてしまうのが罪と知らぬまま。
 罪を上塗る己が所業を、罪に非ずと主張して。
 光の剣が交錯し、入りの陽を圧する火花を撒き散らす。『彼』はブレイドの光子密度を上げた。リミッタ解除、二度と使いものにならなくなるのを承知で、断罪の鎌を推し出だす。 
 咎人よ。
 咎人、キクチ・マコトよ。
≪己が罪を認め、受け入れ――そして死ね!≫
「嫌だ!!」
 銃声。
 ブレイデバイス左腕のハンド・ガン。零距離で放たれたその一発が、彼の複合装甲を易々と貫き、破壊した。最大出力のビーム・ブレイドを、瞬時とはいえ片手で支えたまま、小柄な戦士は銃を用いた。
 飛行ユニット、ダウン。高度維持不能、自由落下。電圧低下、姿勢制御不能。索敵不能。知能回路出力、低下。
 音声出力装置――健在。
≪そうか……どこまでも抗うか≫
 耐久限界を超えた高度から接近する地表を装甲に感じつつ、『彼』は電子音声を放った。既に真っ黒になった光学センサに、こちらを見下ろす瞳をはっきりと捉えながら。
 その奥の炎と、意味とを、捉えながら。
≪いいだろう。とどめを刺せ≫
 敢えてそのことを告げたのは、人工知能が宿した戦士としての矜持か、敬意か。それとも――
≪血に塗れし装着剣。いつかそれが、貴様の――≫
 処刑執行者(エクセキューショナー)の、意地であったか。
≪死装束となるのだ≫
「何が死装束だ」
 ブレイデバイスの少女の声は、最早『彼』に届かない。各種センサが完全にダウン、人工知能ももはや虫の息。あとはアスファルトに叩きつけられ、爆散してスクラップになるのを待つのみだ。
 が、
「ボクが……」
 聞こえた。確かに。はっきりと。
 戦士が紡ぐ怒りの声が。
「みんなが……」
 戦士が紡ぐ――
「……プロデューサーが……」
 嘆きの叫びが。
「――何をしたって言うんだーっ!!」 
 機体に衝撃。大出力ビームの直撃か。落下速度増加。爆発的に近づく『死』との距離を計算しながら、『彼』は自分以上の速度で地へと降下する物体を感知した。ひとつしか無い。キクチ・マコト。ブレイデバイスの動力降下(パワー・ダイブ)で地表へとわずかに先回り、ビーム・ブレイドを空へと向ける。
 まったく間を置かず、『彼』の複合装甲体はその刀身に貫かれ――
 四囲を消し飛ばす爆炎が、無人の廃墟を大きく揺るがした。



「――はぁっ……!」
 キクチ・マコト――菊地真は、大きく肩を喘がせた。
 がっくりとその場に片膝をつき、凛々しい容貌を俯かせる。
 束の間。
「…………」
 ビーム・ブレイドとハンド・ガンを、それぞれの収納スペースへ。討ち取った襲撃者への感慨も見せず、ゆっくりと歩き出すその足取りに停滞は無い。あれだけの戦闘を繰り広げ、至近にトルーパーの爆発を受けても、体力的・肉体的損耗は一見して確認することは出来ない。
 その背を感知する力すら、既に失った『彼』であったが――
 人工知能は、健在であった。
(……スピローヴァ)
 音声に変換することもかなわぬ、機械知性体の想念。何人にも認識されることなく、ただ生まれ、消えてゆくだけの無意味な信号。
 スピローヴァと呼ぶ存在へ、手向けし声。
 スピローヴァ――spill over(こぼれたモノ)。
 貴様たちは、この世の理からこぼれた、異端分子なのだ。
 我々は、節理の番人として、その存在を決して赦さぬ。
 キクチ・マコト。知っているか。
 貴様がプロデューサーと呼ぶ彼の男は、“頂点”と“約束”を理由に、時を巻き戻す禁忌へと触れた。
 なにがしかの失敗――その覆水を、盆に返すべく。
 結果、時空は歪み――果てに生じたるは、この黄昏の世界。
 貴様の戦いは、永久に報われぬ。
 絶望と添い遂げるがいい。咎人(アイドル)よ――

 トルーパーのコア・ユニットの爆発音など、菊地真には既に聞こえてはいなかった。
 彼女は一人、丘に立つ。黄昏の、世界が未だそれに染まるより以前から、慣れ親しんだその丘に。
 装着したゴーグル・デバイスに、ひとつの画像データを投影。それは、在りし日、まさにそこから一望できた、あまりに有り触れていた街並み。
 ボクがいて、
 みんながいて、
 プロデューサーがいて、
 765プロダクションが有った――街並み。
 画像の一部を抽出拡大。貧乏くさい集合ビルをピックアップした映像が歪んだ。デバイスの不具合? ゴーグルに手を当てようとして持ち上げた掌が、知らず、その上から両の目を押さえた。後から後から溢れ出す、こみ上げる滴を、しゃくりあげる声を、押し留めるために。
 トルーパーは、覆水という言葉を使った。
 ならば菊地真の涙は、零れた水のために流すのか。
 それとも、満たされていたかつての水を想い流すのか。
 今は荒野だけを見下ろす丘に、“剣”の咎人(アイドル)は両膝を折った。声を殺し、顔を覆って涙に暮れるその様は、年相応の少女のそれに他ならなかった。
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by sasop | 2010-08-02 03:16 | 書いてみたシリーズ
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