さそり庵



スポーツシューズのシンデレラ

8/29黒髪ショートのシンデレラの後編になります。まずはそちらを御覧くださいなん。

『徒花』も続き書きたいわねぇ……。



 翌日、18時27分――菊地真、帰社。
「ただい……」
 ぱんっ!
 ぱぱぱぱぱぱん!ぱんっ!!
「おめでとまこちーーーーーーん!!」
 仕事を終えた今日の主役を、万雷の喝采とクラッカー音が出迎えた。
 ……が。
「ありーまこちん、なんでいきなりはるるんに抱きついてちょ→涙目で震えてんの?」
「真は大きな音がニガテだからやめときなさいってあんだけ……!」
「そそそそそそうだよぅ二人とも! それじゃ逆に嫌がらせだよぅ!」
「いや逆の逆で……グッジョブとゆーか……」
「立ち位置をミスったの! あと半歩! 不覚! 不覚なのーっ!」
「――あら?」
 主役放置で賑わう事務所が、あずさの声でふと静まった。
「真ちゃん、吾妻さんは?」
「まだお仕事です」
 吾妻――今この場にいない自身のプロデューサーの名を出され、真はようやく春香から離れる。
「仕事、って」
「急に入ったんだってさ。
 ボクはいなくても良いんだとかで……ボクだけ先に戻って来ちゃった」
「あんた」
「みんな待ってるからそうしろ、って」
 真は笑い――
「……そ」
 伊織がやれやれと肩をすくめて。
「ま、誕生日おめでと。真」
 プレゼントの香水を渡したのを機に、事務所は再び先ほどの活気を取り戻した。
 少なくとも、各々の表向きだけは。

 同、23時9分。
「お疲れ様でした」
 765の事務方二人を伴い、緊急の会議を終えたときには、既にそんな時刻になっていた。
「終わってるよなぁ……流石に」
 何が――かは、言を待つまい。
 約一名以外未成年の誕生会が、深夜まで続いていてはいけない。
「……なんで?」
 たまたま退出が重なった、我那覇響が青年に問うた。
「大事な仕事だから」
 プロデューサーはこともなげに言う。
 突如飛び込んだ会議とは、961プロダクション解体に伴う、響、貴音の765移籍に関するものだった。
 大手事務所の二枚看板、それも、何だかんだでうちの連中とやたら仲の良い二人の獲得は、プロダクションの今後にとってかけがえのない財産になる。ゆえにこそ、同僚たちの気遣いも断り、外さなかったと青年は言うが――
「誕生会よりも?」
 貴音の声は、沈んでいた。
「相方の祝儀に参列するのも、あなた様の重大な命ではないのですか」
「考え方ひとつさ」
 あくまでさばさばと青年は告げる。時計を見詰める表情を、その場にいる誰にも見せぬまま。
「俺は真のいる風景が好きなんだ。
 あの子がみんなと一緒にいる時間――ライブとかオフとか、誕生会とか。そんなのが有ると幸せになれる。
 それをプロデュースするためだったら、ちょっとくらい真と離れもするさ。
 ましてや今日は、これから真と一緒にいてくれる大事な仲間を迎える話し合い」
 だから、なんのこたぁない。笑って告げるのは紛れもない本心。765プロダクションの女性二人には、それが痛いほどにわかった。
 一番痛いのは、彼自身だということもまた。
「さてと、じゃあ、帰りしなご祝儀メールでも」
 と、青年が携帯の電源をオンにした――
 その時であった。
「ん」
『目が逢う瞬間』の着うたが流れる。送信者を示す液晶に表れる如月千早自身の名前に少々面食らいながら、ともかくも通話ボタンを入力。
「もしもし?」
『あ、おはようございます。如月千早です』
 知っている。如月女史、いまだに携帯をよくわかっていない。
『今、どちらにいらっしゃいます? 出先? そうですか、では誕生会に――』
「ん。欠席」
『間に合うのでは?』
「え?」
 きょとんとする青年に、
『いえ、私もついさっき撮影が終わって、車からかけているのですけど……事務所に連絡したら、まだ盛り上がっているようで』
 時計を確認。
「あの不良娘……!」
「夏休みって素晴らしいですよねぇ」
 後ろでのたまう音無小鳥。
「夜明かしもたまには良いじゃないですか」
「うう。まあそりゃ、仕事じゃザラになってきましたが」
『いえ、さすがに、零時を目処に切り上げるそうですが……』
「そう、か」
 一瞬宿りかけたプロデューサーの目の奥の光が、再び暗い淵へと沈む。
 千早とそのプロデューサーが社用車を利用したために、ここまでの移動には電車を用いた。駅からそれなりの距離を歩くため、所要時間は一時間強。どう急いでも、間に合うようタイミングではない。
『そのことなのですが』
 千早の声は。
 近づいてくる、自動車のエンジン音と協奏していた。
 目を点にする一同の前に、見慣れた社用車が停止する。開いた助手席の窓からのぞく、蒼髪の歌姫と、ハンドルを握る青年の面。
「――このような」
「うおおおおおおおおお!!」
「あ、我那覇さん――」
「車(コイツ)なら間に合う」
 響に食いつく千早は無視し、運転手は同僚を手招いた。ドアを開け、「お前が動かせ」と運転席を立ちながら。
「カボチャの馬車だか、白馬だか。どっちでもいいが、姫君がスポーツ・シューズ持参でお待ちかねだ。急げ!」
「………!」
 このとき。
 ものも言わずシートに滑り込みハンドルを握る青年は、後席に座る律子と千早がこっそりウィンクを交わしていたことに、当然ながら気づかなかった。

 車が駐車場に落ち着いたとき、すでに事務所の明かりは消えていた。
「……ッ!」
 ぎっ、と歯噛みし、青年は運転席から飛び出す。
後に残す同乗者たちも顧みず、二階への階段を駆け上がっていく。間に合わなかったと肩を落とすのは、菊地真のプロデューサーではない。そんなのは、あの真っ暗な職場に誰もいないのを確認してからすることだ。
(真!)
 流れる景色のその向こう、寂しげに微笑む少女が見える。
「先に帰ってろ」と言われて、素直にうなずいたときの表情。知らなかったわけがない。彼自身、傷まなかったわけがない。
 それでも右と左に別れたのは、二人に共通する欲の薄さゆえ。己を第一とせぬ気質ゆえ。
 青年は自分は居なくても良いと言い――
 真は青年だけ居れば良いと言う。
 偽らざる本心のその奥に、消すこと能(あた)わぬ本音の存在を若者は知った。
 真のいる風景。叶うなら、そこに自分の姿を加えたい――!
 バン
 永遠に近い20秒足らずの疾走を終え、そのままの勢いで事務所へ飛び込む。鍵がかかっていたかどうか、覚えてもいない。
 そこには、闇しか無かった。
「………」
 ふぅ、と静寂(しじま)に吐息を流し、数歩、見知らぬ暗中へ分け入り――
 不意に鼻腔をくすぐった芳香に、思わずその場に立ち尽くす。
「……もぉ」
 照明が点いた。
「舞踏会、終わっちゃいましたよ。王子様」
「……御者がトロくてな」
 目を細めながら、蛍光灯のスイッチに指をかけている小さな人影に苦笑する。
 まるで鏡を見るような心地で。
「そっちこそ、腕の悪い魔法使いに当たったんだな。
 12時まだなのに魔法が解けてる」
「そんなことないでしょう?」
 ジャージの胸に手を当てながら、芳香の主は照れたように笑った。なるほどこれは、ウサギを連れた大魔導師がいたものだ。
 もう一度笑い、「良かったな」と告げてやる、嬉しそうにうなずく真へ、
「待っててくれたのか?」
 肯定のサイン。
「早寝早起きのいい子のはずなんだが」
「確かめなきゃいけませんでしたから」
「何を」
「ボクの魔法」
 スポーツシューズのシンデレラが、破願した。
「12時過ぎても解けてませんね。――へへ」
「当たり前だ」
 え、と向けられる瞳から、目を逸らす。
「いったいいつの12時から、かかりっぱなしだと思ってるんだ。自覚が足りないんだよ、ばか」
「え……え」
 キョドりはじめる担当アイドルに、プロデューサーは乱暴な足取りで近づいた。顔が赤い。それを痛いほど自覚しながら、右の手を取る。
「!!」
 バキンと硬直する掌に、用意していた誕生日プレゼントを握らせた。八月の石、ペリドットをあしらったネックレス。
「ぁ……」
「おめでとう、真」
 宝石を包み込んだ小さな拳に、コツンと自らのそれを重ねる。
 本当はもう少し、真好みのベタベタな演出を考えていた気がするのだが……忘れた。誰かさんが闇討ちなどするからだ。
「……プロデューサー」
 震える声は背中(せな)で聞く。
「ありがとうございます――
 へへ! へへへへっ! 嬉しいです、プロ……王子様! やーりぃ……!」
 ああもうこいつは。まったくもう。
 手を伸ばし、ショートをわしゃわしゃと掻き回してやる。
 黒髪ショートのシンデレラは、世界一心地よいブラシに髪をとかされて、幸せそうに目を細めていた。

 ――直後。
 車から上がってきた面々と、その辺に(真にも内緒で)隠れていた『舞踏会』参加者一同のために、この二人、めいっぱいからかわれることになるのだが――
 それはまた、別のお話である。



 おしまい。


――――
最後、駐車場に戻ってきてからの二人が形に出来なくてこれまでごもりしてた後編……と言うか後半部。
問題のシーンはほとんど愛と勢いだけで描き上げたので、伏線とか描写とかgdgdになってる可能性もありますがまあ言い訳は致しませぬ(笑)。
いやちょっと、幸せな真分がどうしても必要だったもんでさ。
ちっとでもお楽しみ頂ければ幸い~。
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by sasop | 2009-10-08 00:19 | 書いてみたシリーズ
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