さそり庵



黒髪ショートのシンデレラ

お誕生日おめでとう、真。
生まれてきてくれてありがとう。またひとつ歳を重ねてくれて、ありがとう。そしてこれからもよろしくね。
こんなものしか用意できなくてごめん、っていうのは、これからの埋め合わせで勘弁てことで……お願い(苦笑)。





黒髪ショートのシンデレラ

「シンデレラの魔法は十二時で解けたんだ」
 ある夏の夜の仕事上がり。
 どういった経緯だったか忘れたが、事務所で真と話していて、なんとなくそんな話題になった。
 誰もが知っている童話のハイライト。数多の場面にて引かれる悲劇。
「でも、あのお話で大切なのはその後だよな。
 落としていったガラスの靴。それを手がかりにシンデレラを捜す王子様。そして迎えるハッピーエンド……」
 女の子の夢ですねぇ、と担当アイドルは息をつく。
「舞踏会の後、王子は何日も何日もかけてシンデレラを捜した。
 つまり、彼女が王子にかけた魔法は、十二時過ぎても解けることはなかったわけだ。恋っていう名の魔法はさ。
 俺、あの物語で一番の魔法使いはシンデレラ自身だと思うんだよな」
「そりゃそーですよ」
「へえ?」
 夢見る瞳で、真は言う。
「女の子はみんな魔法使いです」
「真も?」
「ボクは……」
 一転、中性的な美貌が寂しげに笑った。
「どうかな。自信無いかも」
「おいおい」
「そうだ」
 真はふと顔を上げ、
「――ねぇ、試していいですか」
「え?」
 青年が聞き返そうとしたとき――
 真の面(おもて)が、彼の視界を満たしていた。
「ッ……」
「ボクの、魔法」
 息を、呑む。
 さらさらと、窓からそよぐ夏の夜風に揺れる前髪。
 上目遣いの黒瞳が、流麗にカーヴを描く長い睫毛たちの下からまっすぐにこちらを見詰めている。
 真珠のように白い柔肌、その頬に差された鮮やかな朱の彩は、何を顕して映えるのだろう。
「――おうじ、さま」
 微かに震えるその声は、呪文――
「私と、踊って、くださいますか……?」
 ――喜んで。
「!!」
 はっ、と。
 立ち尽くす真に向けた言の葉は、彼女自身が揺らした空気に紛れて消える。
「あ、あ」
「……真」
「プロデューサー……」
 交わる視線が、そっとほどける。
 やや、あって。
「何してんだろ、ボク。
 変だな……」
「………」
「帰ります、ね」
「あ、ああ」
「……お疲れ様でした!」
 そそくさと頭を下げ、一目散に去っていく。一度もこちらを見ないまま。
「真――」
 ばたん。
 派手な音をたて閉まる扉の傍らで、間もなく役割を終えようとしている今日付の日めくりカレンダーが、風にあおられぱらりと揺れる。
 ――八月二十八日。
「真」
 取り残された青年は、静寂にそっとその名を流す。
 一枚奥、二十九日付のページに、『まこちんのお誕生会だZE☆ヒャッハー』と書き殴られた双子の字を見て、何故か逃げるように目を背けた。
「今さら過ぎるぞ。
 ……ばか」
 カボチャの馬車の魔法なら、解けるまであと数時間。
 黒髪の灰かぶりの魔法が自分を虜にしてどれくらい経つか、姫様におかれては全く自覚しておられないらしい。
(こりゃお仕置きだな)
 デスクの奥に厳重に秘めたプレゼントのネックレスを確認。青年は火照った頬もそのままに、一人、帰り支度を始めた。
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by sasop | 2009-08-29 20:19 | 書いてみたシリーズ
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